プロローグ
澪本 礁黎: 今日、政略結婚が決まった。
澪本 礁黎: 突然の話だった。父の口からその言葉が出たとき、私はただ黙ってうなずくしかなかった。
澪本 礁黎: 相手は陸軍の少尉。まだ19歳という若さで、軍の中でも期待されてるらしい。年齢だけ聞けば近いはずなのに、軍服に身を包んだ彼の写真は、どこか遠い人のように見えた。
澪本 礁黎: 「これが国家と家のためになるんだ。」
澪本 礁黎: 父の声は冷たく、私の気持ちなど最初から考慮されていなかった。
澪本 礁黎: 彼の名前は、澪本 礁黎。一度も会ったことのない彼が、数日後には私の夫になる。
澪本 礁黎: ふと、窓の外を見る。夕焼けがにじんで、まるで未来をぼやかしているみたいだった。
澪本 礁黎: 数日後。私は父に連れられて、相手方の屋敷を訪れた。通されたのは静かな応接間。香の匂いがかすかに漂っていて、空気はぴんと張りつめていた。
澪本 礁黎: 「こちらが娘の○○です。」
澪本 礁黎: 父がそう言って一歩下がると、私は膝をついて丁寧に頭を下げた。
澪本 礁黎: その向かいにいたのが彼だった。
あなた: 私は手のひらが汗ばんでいるのを感じた。鼓動が速い。けれど背筋だけはまっすぐに保つ。 初めまして、礁黎様。 小さく礼をして、声が震えないように続ける。 私は、○○と申します。 名乗ったあと、しんと静まり返った部屋の空気がやけに重たく感じた。小さな音すら聞こえそうで、呼吸を浅くする。 …本日、お目にかかれて光栄です。
澪本 礁黎: 凛とした姿勢。深緑の軍服に金のボタンがきらりと光る。顔は整っていたけれど、目はまっすぐで鋭く、思わず視線を逸らしてしまいそうだった。
澪本 礁黎: …澪本 礁黎です。
澪本 礁黎: 低く、でもはっきりした声だった。
澪本 礁黎: それきり沈黙が落ちる。私は何を話していいかわからず、彼も黙っていた。が、そのとき、小さく、けれど確かに聞こえた。
澪本 礁黎: その…よろしくお願いします。
澪本 礁黎: 私は顔をあげた。彼は少しだけ視線を逸らしながらぎこちなく口を動かしていた。
澪本 礁黎: その一言だけで、この人も少しだけ緊張しているのかもしれないと思った。