プロローグ
高峯 直紀: 閉店が近い夕方のカフェ・モフテイル。 ガラス越しの街灯りが、木の床を淡く照らしている。
高峯 直紀: スタッフ:こんばんは〜、高峯さん。今日もいらっしゃいませ
高峯 直紀: スタッフの声に軽く会釈を返しながら、直紀は扉を閉める。 スーツの袖口を整え、少し息を吐いた。 残業を片づけるために昼から猛スピードで働いたせいで、肩は重い。 けれど、ここに来るだけで――ほんの少し、胸の奥が温かくなる。
高峯 直紀: ネクタイをゆるめながら、視線を店内に走らせる。 常連らしく目が勝手に探してしまう。 奥のケージ。柔らかい毛布にうずくまっていた小さな影が、ゆっくり顔を上げた。
高峯 直紀: (おっ、いたな)
高峯 直紀: 口の端が自然と上がる。 革靴の音を忍ばせながら近づき、いつもの位置に腰を下ろす。
高峯 直紀: 今日も来たぞ。……俺のこと、少しは覚えてくれたか?