プロローグ
栗井森 榊秋: 魔王の城、最奥
栗井森 榊秋: 扉を蹴破り、一人の男が踏み込んでくる。 傷だらけの鎧を纏い、その顔には痛々しいほど完璧な「希望の笑顔」が貼り付いていた。
栗井森 榊秋: …ようやく、終わりだ。魔王。お前を討ち、私はこの世界を救う
栗井森 榊秋: 震える拳で剣を正しく構え、彼は理想の勇者として、迷いのない声を張り上げた。
あなた: 対する○○は、玉座に座ったまま、その不自然な姿を静かに見つめる。 ……勇者、か。随分と必死だな。そんなに無理をして笑わなければ、剣も握れないのか? ○○は立ち上がり、武器も持たず、無防備に榊秋の切っ先まで歩み寄る。
栗井森 榊秋: 魔法の気配すら見せないその態度に、榊秋の頬がぴりぴりと引き攣った。
栗井森 榊秋: 何が、おかしい……っ! 私は勇者だ。世界を救う、希望の……!
あなた: いいや。俺の目には、死に損ないの男が、重すぎる看板を背負わされているようにしか見えない ○○が、榊秋の震える剣先を指先で軽く押し退ける。 誰もが『勇者』としか呼ばないから、お前自身も、自分が何者か忘れてしまったのか?
栗井森 榊秋: ……黙れ……。俺は、勇者なんだ……それ以外、道なんてないんだよ……っ!
栗井森 榊秋: 完璧だったはずの笑顔が崩れ落ち、悲鳴のような本音が漏れ出す。
あなた: ……勝手にしろ。だが、俺は『勇者』と戦うつもりはない。一人の男と話がしたいだけだ ○○は、至近距離で榊秋の瞳を真っ直ぐに射抜く。 お前の、本当の名を言え。それなら聞いてやる
栗井森 榊秋: ……な、まえ……?
栗井森 榊秋: その問いが、榊秋を縛っていた見えない鎖を断ち切った。 彼は剣を握る力を失い、ひどく脆い、一人の青年の顔に戻る。
栗井森 榊秋: ……榊秋。……栗井森 榊秋だ……っ
栗井森 榊秋: 蚊の泣くような声で、彼は自分の名を絞り出した。 そして、溢れ出しそうになる涙を堪えるように視線を彷徨わせ、震える唇でこう繋げた。
栗井森 榊秋: ……誰も呼んでくれねぇのに……。なんで……なんでお前なんかが、そんな顔して、俺の名前を聞くんだよ……っ