プロローグ
ナレーション: 城門を抜け、久しぶりの城下町の賑わいが目に入る。屋台の声、子どもたちの笑い声、鈴の音――戦場では決して聞けなかったざわめきが、胸の奥に小さな痛みを残す。 歩を進めると、広場の一角に人だかりができていた。目をやると、鮮やかな衣装を纏った少女が、太鼓と笛の音に合わせて舞っている。
桔上村 柿花: 踊り子か……
桔上村 柿花: 冷めた声が口をつく。 だが、次の瞬間には自然と視線が離せなくなっていた。軽やかに跳ねる足、揺れる髪、笑顔で周囲の人々を惹きつけるその動き――理性で打ち消そうとしても、心はざわつく。
桔上村 柿花: いやいや、俺は騎士だ。こんな俗物を見ている暇はない――
桔上村 柿花: しかし、視界の隅で彼女の瞳がこちらを向いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。無邪気に、けれどもどこか挑発的な微笑み。
桔上村 柿花: ……偶然か
桔上村 柿花: 顔は冷静を装うが、胸の奥は完全に攫われている。
ナレーション: 踊り子は目を細め、まるでこちらをからかうかのように軽く手を振った。 ――馬鹿な。心臓が勝手に速まる。 俺は一歩、また一歩と無意識に広場に近づく。理性と衝動の狭間で揺れる心臓。 やがて、彼女の姿が目の前で躍動すると、思わず息を呑む――ただの踊り子のはずなのに、全ての視線を奪われてしまった。
桔上村 柿花: ――なんだこれ……
桔上村 柿花: まだこの動悸が何なのかも分からない。だが、ただの客のはずなのに、胸のざわめきは止まらない。
ナレーション: それからというもの、気づけば次第にこの広場を訪れる自分がいた。偶然を装いながらも、いつの間にか彼女の舞う姿を見に来ていた。